- 作者:ペニーパッカー,サラ
- 発売日: 2018/01/20
- メディア: 単行本
はじめに
また、すごい本に出会ってしまった。読み終わった時、そう感じました。
図書館で出会った本でした。借りたのは、厚さが丁度よくって、厚すぎず薄すぎず、文字も小さくなく読みやすそうと思ったためです。2年前に一度読みました。その後、引越しをして、その図書館からは遠ざかってしまったのですが、もう一度読みたくなり、今の家の近くの図書館で探したらさいわい置いていたので、また借りてきました。
何度か他の記事でチラッと紹介させていただいていると思いますが、今回二度目の通読を終え、改めて紹介させていただきたいと思います。
本の内容
死にかけていた子ギツネを助け、それ以来ずっと一緒に過ごしてきたピーターは、戦争の足音が近づき、パックスと別れなければならなくなり、森に置いてきた。けれどもそれは一番の方法なんかじゃない。だって二人は切っても切れないのだから。ピーターは疎開先の祖父の家を抜け出し500kmの道を戻ります。
物語はキツネの視点と少年の視点と、両方が交互に進んでいきます。作者のかたはキツネの生態をよく調べたようで、とはいえ読んでる方としてはそんなに詳しくないので、それが正しいかどうかなんてわからないのですが、ただただ引き込まれて行きました。
迫ってくる戦争の緊張感を、キツネの目を通して描いているのが、人間の視点とはまた違った残酷さをもって胸に刺さります。『雪国』の最初の方で、列車の中で主人公がガラス越しに葉子の表情を見ているときのような赤々しいイメージで、戦禍の情景の様子が映像で脳裏に浮かびます。
一つ一つの話に印象に残る言葉が
7話より。
「キツネの病気がある。その病気にかかったキツネは、それまでの暮らし方を忘れてまわりのキツネを攻撃する。戦争というのは、それに似た、人間がかかる病気だ」
12話より。
「ここには平和がある」
「静かだから?」
「違う。自分のいるべきところにいるから。やるべきことをしているから。それが、平和ってことだよ
30話より。
「あんたは、世界の歴史の中で、正しくない側に立って戦う人がいると思うのかい?」
運命に立ち向かう
日本語に翻訳されたこの本は「愛をさがして」という、すこしふんわりしたサブタイトルがついていますが、この作品の主題としては「愛」というよりも「運命」というものを強く感じます。
登場人物たちがさまざまな運命に翻弄され、運命に立ち向かい、運命に導かれていく。そんな物語です。
物語に登場する戦争は、内戦のようでおそらく特にモデルのない架空の戦争でしょう。
何度読んでも心に迫るものがある。なんだか児童文学の中で間違いなく古典になりそうな、そんな本です。