サポンテ 勉強ノート

サポンテの勉強ノート・読書メモなどを晒します。

ティーン向けファッション誌の主題は『憧れ』

はじめに

 以下のニュースがありました。

やせて色白のモデルに傷つき…ティーン向けファッション誌は「ありのままで美しいと発信を」元愛読者らがネット署名:東京新聞 TOKYO Web

 見た目に優劣はなく、ありのままで美しいと発信することを求めます! 10代前半の女子に人気のファッション誌に宛てて、こんなメッセージを送ろうという署名運動がインターネット上で広がっている。

 確かに「色白痩身」が過度に偏重されている風潮はあり、そのこと自体はサポンテも問題であると考えます。

 しかしながら、いささかツッコミどころもあるように感じられます。

joy2109.theshop.jp

ニュース記事自体に答えがある

 ニュース記事より引用します。

雑誌で紹介されるファッションを見て楽しんでいたが

「雑誌を見ては『私とは逆だ』と思い、劣等感を抱くようになった」

 なぜそんな雑誌を愛読していたのでしょう。劣等感「だけ」が沸き起こってくるのなら、わざわざ買わなくて良いのではないでしょうか。

 これに対しては、以下のツイッターが参考になるのではないでしょうか。

「わざわざ劇場まで行って現実にいそうな男を見て何が楽しいのだ」

 小中学生の興味の向く先は『憧れ』です。彼女ら・彼らは自分自身や日常と隔たりが大きい『憧れ』だからこそ強く惹かれるのです。現実に居そうなもの、ありのままのものが載っている雑誌を、はたして小中学生がなけなしのお小遣いを払ってまで買うものでしょうか。劣等感だけでなく、そこに『憧れ』があったからこそ雑誌を買い続けたのではないでしょうか。

 『憧れ』という経済的インセンティブは、意外と様々な場面で見過ごされていると感じます。男子小中学生がスポーツカーに憧れて図鑑を買ったりするようなものです。彼らにはそのような車を買う経済的前提がないばかりか免許すら取れません。みんな『憧れ』を買っているのです1

 また、次のような文章もありました。

ある雑誌で「ボディポジティブ」という言葉と出合い、意識が変わった。理想の体形を固定化するのではなく、ありのままの美しさを認めようという考え方で、欧米のファッションシーンに遅れ、数年前から日本でも叫ばれるようになった。「プラスサイズモデル」と呼ばれる体の大きなモデルの活躍に影響され「私の見た目がダメなのではなく、そう思い込んでいただけ」と気付いた。

 この発起人は、思考内容が成長に従って自然に変化したと考えられます。もう雑誌を買っていた頃の小中学生の気持ちは失っていて、且つそのことを自覚できていません。厳しい言い方ですが、子どもの目には「大人になってから知ったことを子どもに押し付ける説教臭い大人の仲間入りをしたヤツ」が「私達の好きな雑誌にケチをつけている」と映ることでしょう。

 短い記事でしたが、その中に全て答えが書かれていると感じます。

『憧れ』を作る

 もちろん雑誌自体が『憧れ』を作るという側面もあるでしょう。その意味でも「色白痩身」だけを重視した偏った誌面づくりは改善の余地があります。

 また『憧れ』の対象は世代だけではなく、時代とともにも変化します。小中学生の中でも「色白痩身」から「ありのまま」にトレンドが移りつつあるのかもしれません。雑誌自体も変化しなければ、やがては商業的にも失敗してしまうでしょう。

 そして、それを確かめる方法はあります。自分で「ありのまま」をテーマにした小中学生向けファッション雑誌を作ることです。それが商業的に成功するのなら、トレンドが移ったのだと示す事ができるでしょう。これは、逆の言い方もできます。ほんとうに社会を変えたいのであれば、自身がそれを商業的に成功「させる」ことで実現できると。商業的成功は、商品自体の魅力から自発的に成功「する」という消極的なものと、営業努力によって成功「させる」という積極的なものがあります。成功が望めない分野でも、手腕によっては成功「させる」ことも可能なのです。そして、そうやって新しい『憧れ』を作ることができれば、本当の意味で社会を変えることができるでしょう。

他人の褌で相撲を取る

 今回やり玉に挙げられている雑誌が、その企画から商業的成功を得て事業として継続させるまでには、多くの努力が必要だったことでしょう。サポンテはべつに雑誌を作ったことはありませんが、それがどれほど大変なことであったか想像くらいはできます。そうした多くの人の長い努力の上に築いた媒体に対して、署名活動などで圧力をかけて自分のイデオロギーを通そうとするのは、サポンテには「人の褌で相撲を取る」典型にしか見えません2

 それに、署名が受理されてどうなるのでしょうか。「ありのまま」を主題にした特集記事を出して一度ガス抜きをしてそれっきりになるのがオチではないでしょうか。それはキャンペーンの成功と言えるのでしょうか。

ボトムアップ

 社会問題を解決するには、結局のところ社会を構成する人々の意識を変えるしかありません。そしてそれはトップダウンよりもボトムアップが有効であると思います。

 商業雑誌は、商業的成功がなにより重要です。ターゲット層の興味の対象である情報を提供しなければ売れません。ターゲット層の関心(憧憬)と異なる方向性の雑誌を作って売上が落ちたら、やはり多くの人にメッセージは伝わらなくなります。運動はなにも成し遂げることなく、ただ既存の雑誌が焦点のぼやけたつまらないものになるだけです。

 運動を成功させるためには、やはり小中学生向けファッション雑誌を自分達で作ってみることが肝要であると思います。雑誌でなくても、フリーペーパーから始めても良い。「コンテンツ」と言いましょうか。今日ではネットを含め、コンテンツを提供するための様々な媒体、チャンネルがあります。自分たちでモデルを募集し、選考し、コーディネートし、写真を取り、取材をして、記事を書き、スポンサーを集め、小中学生の関心を惹くコンテンツにまとめ上げ、リリースして、それを商業的に成功「させ」て、新しい『憧れ』を作るのです。それが遠回りに見えて、その実、最も早く社会を変革する道のりになるのではないかと思います。

 これは「どうせできないだろう」とか「売れっこない」と思っているから言っているのではなく、ほんとうにそういうコンテンツがあれば「きっと面白いだろう」と思って言っています。正しかろうと間違っていようと、画一的な価値観で作られたコンテンツばかりの現状は、正直「つまらない」のです。

 大手出版社は官僚主義大衆迎合主義に陥り、あまり冒険的なことができなくなっています。そのような出版社からのトップダウンによる発信は、結局一過性に終わることが多く、ただネタの一つとして消費されて終わりです。小さいボトムアップな組織のほうが、いろいろと特色をもった挑戦的で刺激的な面白いことができるし、息長く続くのではないかと思っています。

期待したい

 「価値観を押しつける」のではなく、子どもたちに「もうひとつの新しい希望を示す」ことが、大人の責任だと思います。

 今回のキャンペーンで耳目を集めたことは、そのコンテンツの宣伝材料として利用してもいいと思いますし、集まった知見もマーケティングのノウハウにしてもいいでしょう。発起人の方には、ファッションという得意を生かして新しい『憧れ』を作り、現状を打破していってほしいと思います。


  1. だいたいモデルの体型だけじゃないですよね。来ている服や装飾品も含めて、小中学生がホイホイ買いやすい値段じゃないですよね。でも、だからこそ『憧れ』るんですよね。

  2. キャンペーンのサイトには 発信者はなぜか言及しておりませんが女性は胸が大きい方が良くて胸の小さい人は女性に非ずという風潮も無くなってほしいです と、キャンペーンの主題といささか異なるイデオロギーをねじ込んでくるコメントがありました。これもまさに「人の褌で相撲を取る」典型です。問題意識があるのなら被害者根性丸出しの嫌味ったらしいマウントとってないで、さっさと自分でキャンペーンを立ち上げろって話です。そのための「場」は用意されているのですから。