サポンテ 勉強ノート

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天才! 成功する人々の法則(マルコム=グラッドウェル著 講談社)

天才!  成功する人々の法則

天才! 成功する人々の法則

はじめに

本の題名:天才! 成功する人々の法則 本の原題:OUTLIERS THE STORY OF SUCCESS

成功した人間たちの物語をよく観察していくと見えてくるのは、本人の才能や努力よりも、そのおかれた環境や幸運が有利に働き、それが信じられないほど積み重なったことに依るところが大きい、ということを論じている本です。豊富な事例とそれを発掘する執念の調査で「天才」と称された人たちの物語をとき明かしていきます。

本の構成

プロローグとして、心臓病のない地域「ロゼト」の物語を紹介し、原題にもなっている「アウトライアー (outlier)」__中心やその近くの集団(つまり平均集団)から著しく離れた地点や、全く異なる分野に属する存在__の定義を示します。このロゼトの事例と同じような分析手法を用い、社会の中でアウトライアーと呼んでも良いほどの成功者たちの物語を追うことで、その成功が、どのような要因からもたらされたものなのかを解明していくと示唆されています。

第一部「好機」。 まず1章では、例としてカナダのアイスホッケー社会の例を取りあげます。カナダではアイスホッケーの選手たちを選考する機会が1年に1度であると言います。そのため生まれた日によって身体の成長の度合いで有利な子どもと不利な子どもに分けられてしまいます。そして選ばれた有利な子どもは特別なチームに入ることにより、そうでない子どもよりも練習量が少し多くなります。子どもの成長に合わせてそうした選別が繰り返され、はじめは少しであった差が積み重なって最終的に大きな差になって現れます。「成功は社会やシステムによって決められる」多く持つ者はより多くを手にし、少なく持つ者はその僅かに持っているものさえはぎとられる。著者が「マタイ効果」と呼ぶものになっていきます。 次の第2章「一万時間の法則」では、ビル=ゲイツビートルズ、ビル=ジョイなどを例に、成功するために積み上げた時間の法則性を見ていきます。またこの章の後半と第五勝では、生まれた時代がどう有利に働いたのかも取りあげます。 3章、天才の問題点では、IQ が特別高いにも関わらず、度重なる不運により成功ができなかった者たち、クリス=ランガン、ターマイツなどの事例を紹介しています。そして続く4章でそれらの人々が成功出来なかった理由について、もっと掘り下げていきます。 第五章では、二十世紀初頭にまで遡り、ジョー=フロムという弁護士の物語を筆頭に、第二章の後半で見た「時代背景が成功者たちにとっていかに有利に働いたのか」を更に詳しく分析しています。

「第一部では、成功が蓄積される優位点から生まれると述べた。あなたがいつ、どこで生まれ、親の仕事が何で、どんな環境で育ったか。それが成功するかしないかに大きな差をもたらす。 第二部では、祖先から受け継いだ伝統や態度が、第一部で見た優位点と同じ役割を果たすのかどうかについて探ってみたい」

ということで第二部の主題は「文化の遺産」です。6章のアメリカ南部出身者に見られる「名誉の文化」の事例をはじめに、出自が成功に与える影響を見ていきます。第七章では、航空機の事故から、その文化的背景が与える驚くべき影響について見ていきます。 第八章では、水田作りの複雑さがもたらした勤勉さと忍耐が、数学の修得に必要な「態度」を醸成する文化的優位について論じています。また「欧米の子どもが小学三〜四年生で数学嫌いになる話はよく聞くが、フューゾンはその原因のひとつとして、数学が筋の通ったものに思えないからではないかと論じる。つまり、数学の言語的な構造が不出来であり、基本的な規則が不明瞭かつ複雑である、と。」これは何のことを言っているかというと、例えば英語では1〜20までの数字には個別の呼称がある、つまり20進法になっていて、その後はそうではないなど、規則が一貫していません。ドイツ語でもフランス語でも、アジア人の目から見ると奇妙な規則があります。これはよく言われていることではあります。言語は生活と密接しているものなので、かつては20進数も理にかなったものだったのでしょう。しかし「数学を学ぶ上では」という点で都合の良いものではないようです。 第九章ではアメリカ貧困層の一部に対して行われている教育プログラム KIPP を例に、環境を変えることで得られる効果の実証について述べられています。著者の論調はここで子どもたちへの愛情に満ちています。すべての子どもたちは無理かもしれないが、より多くの子どもたちに「機会」を与えるべきだと。

エピローグでは、著者自身もまた「好機」に恵まれたのだと述懐しています。しかしこの本を通じてみられる著者の姿勢はこの「おまけ」的な章とて例外ではありません。徹底的に自分のルーツを遡り、時代背景と照らし合わせて、良いことも悪いこともすべて、その物語をさらけ出しています。

主タイトルの違和感

読み終えて初めに(読んでいる途中から?)思ったのは、本書主タイトルの邦訳「天才!」の違和感。「天才!」というタイトルから受ける印象は「お約束のサクセスストーリーものか…」でした。だからちょっと避けていました。それにこの本には、成功しなかった天才、成功できたはずなのに世界がその才を浪費してきたことに対する著者の憤りが強くにじみ出ていて、主タイトルからは真反対の印象を受けるからです。ある程度キャッチーなタイトルにする必要は理解できますが、失敗ではないかと思います。自分なら「トクベツ!」とでもするでしょうか。

副タイトルの「成功する人々の法則」の方は本の内容とも原題とも乖離が少なく、違和感はまったくありません。それだけに主タイトルの方が気になってしまいます。

しかし翻訳ものを読んでいつも思うのは、日本語のタイトルよりも原著のタイトルの方がビミョーだということです。原著の副題「THE STORY OF SUCCESS」も、なんというか…そう、ビミョーです。

念のため、本のタイトルは翻訳した人がそのままつけているとは限りません。もちろんそういうこともありますが、商業的な理由によってつけられることもあります。この場合はどちらか分りません。

私たちの選択

第二部には「遺産」という文字が入っていますが、特に第七章で取りあげられているのはどちらかというと文化的負債。その他の、アメリカ南部の名誉の文化も、英語圏における「数学の言語的な構造が不出来」な問題も、どちらかというと負債。これは他の文化と比較してみないことには、なかなか気づくことも難しい根が深いものです。(同様に「遺産」についてもなかなか気づけないものです。こうしたとき外に居る人からの目は嬉しいものです)

しかし一旦それに気づくと、あとは私たちの選択の問題だと分ります。

私たちは選ぶことができます。文化の遺産を受け継ぐのか、それとも負債を受け継ぐのか。それに忠実に生きるべきか、それとも解放を目指すのか。それを選択するのは私たちの問題です。

※ 第七章の航空機事故の例では、文化の遺産を受け入れつつ、ビジネスでそこを乗り越える可能性を示唆しています。

好機に備える

また、この本を通じて強調されている「好機」についても、同じことが言えるでしょう。もちろん好機が訪れるかどうかは、どうしても「運」に大きく左右されるものです。しかし、もし私たちに準備がなかったなら、運が向こうからやってきたとしても逃してしまうことになるでしょう。「己の非力さに涙することがないよう」来るべき日に備えておくかどうかは、やはり現在の私たちの選択なのです。

大人の選択

また子どもたちに機会を与えるべきかどうかは大人たちの選択です。著者は、アイスホッケーの選手の選抜を年に3回にすべきだと言います。同じように世界中から志望者の集まるハーバード大学についても、一定以上の成績があれば、その中から入学者を選ぶのは「くじ引き」にするべきだとも言います。KIPP のようなプログラムを選択するかどうかを選ぶのは子どもたちだとしても、そのような場を用意するかしないのかを選択することができるのは大人たちです。

日本では、良くも悪くも教育についての選択肢があまりありません。多くの子どもたちに平等に機会があればと願います。