サポンテ 勉強ノート

サポンテの勉強ノート・読書メモなどを晒します。

献灯使 (講談社 多和田葉子著)

献灯使 (講談社文庫)

献灯使 (講談社文庫)

はじめに

 大きな災厄の後の近未来の日本。その災厄以前から生きている人は死ねない身体になり、その災厄以降に生まれた人は体が弱く早逝。日本は鎖国状態でも政府は機能しており、主人公の曾孫は献灯使として国外に旅立つことに...。主人公の老人義郎の曾孫無名を慈しむ気持ち、無名が義郎を労る気持ちの美しさが心に染み入る作品です。

 ネットで、著者の多和田葉子の記事を読み、図書館で本を探して最初に出会ったのがこの本でした。今年の冬だったと思います。1

kodanshabunko.com

gendai.ismedia.jp

www.sankei.com

ディストピア小説の仮面

 「災厄の後」「鎖国」「情報統制」など、ディストピア小説の要素をふんだんに含んでいます。それは著者の想像の枠内に、基本的には存在しています。しかし読み進めるうちに、強い既視感を覚えました。

 大災厄の後も機能しているものの、いつまでも迷走を続ける政府。読んでいると荒唐無稽な政策のオンパレードです。ですが、それを繰り返し読んでいるうち心に湧き上がってくる嘲りと憤りと諦めが混ざったような感情は、現実でも確かに感じたことのある感情です。

 ごく最近に限っても、新型コロナウィルス対策で布マスクを全戸に配布するなどという、どう考えても効果がなくあまりに荒唐無稽でとても信じがたいことを、なんと本当にやってしまったこと。検事長の定年を延長するという、あからさまに私的な動機に基づく立法に妄執していたにもかかわらず、当の検事が醜聞で辞任するや、厚かましくも、これまで全く耳を傾けてこなかった批判を理由にして法案を取り下げたこと。ニューヨークタイムズのアジア拠点の選定から東京が漏れたことについて、選定理由の三つのうち「報道の独立性」だけを意図的に外してNHKが報じたこと。

 これは近未来のディストピア小説の仮面を被った現代風刺なのではないか。そう、ゆるやかに感じました。

 世代によって、価値観によって感じ方は当然違いますが、サポンテにとってこの小説は、荒唐無稽が故にとてもリアルなものとして感じました。


  1. 申し訳ありませんが、その記事がなんだったのか失念してしまいました。本を読んでからグズグズしていたのが悪いのですが、サポンテは言語化__つまり文章を書くのがとにかく苦手なのです。