以下の記事を読み、気になった点を指摘しておきたいと思いました。
宗教がわかってない人はこの4原則を知らない | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
この記事は以下の書籍からの抜粋のようです。
- 作者:中村圭志
- 発売日: 2020/02/26
- メディア: 新書
記事は、以下のような書き出しで始まっています。
宗教を理解するうえで大事なのは、「信じる」「信じない」ということは脇に置いて、それが近代以前の社会では当たり前の文化だったことを押さえておくことだと思います。
しばらく後の方に、宗教とは何であるかについて「もっと簡単に言うと、『霊や神を語る文化』ということです。」とありました。
ここで「霊」という言葉が出てきましたが、この言葉は「精神」と同じ言葉を用いている言語圏がけっこう多いということを押さえておく必要があります。
「霊」と「精神」で同じ言葉を用いている言語
Google 翻訳で使える 109 言語で、「精神」と「霊」を翻訳して調べてみました。下の表のようになりました。109 言語のうち、20 言語が両者を区別しているものの、その他の 89 言語は同じ言葉を用いていました。
言語 | 精神 | 霊 |
---|---|---|
アイスランド語 | Andi | Andi |
アイルランド語 | Spiorad | Spiorad |
アゼルバイジャン語 | Ruh | Ruh |
アフリカーンス語 | gees | siel |
アムハラ語 | መንፈስ | መንፈስ |
アラビア語 | الروح | الروح |
アルバニア語 | shpirt | shpirt |
アルメニア語 | Ոգին | Ոգին |
イタリア語 | spirito | anima |
イディッシュ語 | גייסט | גייסט |
イボ語 | Mmuo | Mmuo |
インドネシア語 | Roh | Roh |
ウイグル語 | روھ | روھ |
ウェールズ語 | Ysbryd | Ysbryd |
ウクライナ語 | Дух | Дух |
ウズベク語 | Ruh | Ruh |
ウルドゥー語 | روح | روح |
エストニア語 | Vaim | Vaim |
エスペラント | Spirito | Spirito |
オランダ語 | Geest | Geest |
オリヤ語 | ଆତ୍ମା | ଆତ୍ମା |
カザフ語 | Рух | Рух |
カタルーニャ語 | Esperit | Esperit |
ガリシア語 | Espírito | Espírito |
カンナダ語 | ಸ್ಪಿರಿಟ್ | ಸ್ಪಿರಿಟ್ |
キニヤルワンダ語 | Umwuka | Umwuka |
ギリシャ語 | Πνεύμα | Πνεύμα |
キルギス語 | рух | жан |
グジャラト語 | ભાવના | ભાવના |
クメール語 | វិញ្ញាណ | វិញ្ញាណ |
クルド語 | Giyan | Giyan |
クロアチア語 | duh | duša |
コーサ語 | Umoya | Umoya |
コルシカ語 | Spìritu | Spìritu |
サモア語 | Agaga | Agaga |
ジャワ語 | Roh | Roh |
ジョージア語 | სული | სული |
ショナ語 | Mweya | Mweya |
シンド語 | روح | روح |
シンハラ語 | ආත්මය | ආත්මය |
スウェーデン語 | Spirit | Soul |
ズールー語 | Umoya | Umoya |
スコットランド ゲール語 | Spiorad | Spiorad |
スペイン語 | Espíritu | Espíritu |
スロバキア語 | duch | duše |
スロベニア語 | Duh | Duh |
スワヒリ語 | Roho | Roho |
スンダ語 | Roh | Roh |
セブアノ語 | Espiritu | Espiritu |
セルビア語 | Духу | Духу |
ソト語 | Moea | Moea |
ソマリ語 | Ruuxa | Ruuxa |
タイ語 | วิญญาณ | จิตวิญญาณ |
タガログ語 | Espiritu | Espiritu |
タジク語 | Рӯҳ | Рӯҳ |
タタール語 | Рух | Рух |
タミル語 | ஆவி | ஆவி |
チェコ語 | Duch | Duch |
チェワ語 | Mzimu | Mzimu |
テルグ語 | ఆత్మ | సోల్ |
デンマーク語 | Spirit | Soul |
ドイツ語 | Geist | Geist |
トルクメン語 | Ruh | Ruh |
トルコ語 | ruh | ruh |
ネパール語 | आत्मा | आत्मा |
ノルウェー語 | Spirit | Soul |
ハイチ語 | Lespri | Lespri |
ハウサ語 | Ruhu | Ruhu |
パシュト語 | روح | روح |
バスク語 | Spirit | Soul |
ハワイ語 | ʻUhane | ʻUhane |
ハンガリー語 | szellem | lélek |
パンシャブ語 | ਆਤਮਾ | ਆਤਮਾ |
ヒンディー語 | आत्मा | आत्मा |
フィンランド語 | henki | sielu |
フランス語 | Esprit | Esprit |
フリジア語 | Geast | Geast |
ブルガリア語 | дух | душа |
ベトナム語 | Thần | Thần |
ヘブライ語 | רוח | רוח |
ベラルーシ語 | Дух | Дух |
ペルシャ語 | روح | روح |
ベンガル語 | আত্মা | আত্মা |
ポーランド語 | Duch | Duch |
ボスニア語 | Duhu | Duhu |
ポルトガル語 | Espírito | Espírito |
マオリ語 | Ko te wairua | Ko te wairua |
マケドニア語 | Дух | Дух |
マラーティー語 | आत्मा | आत्मा |
マラガシ語 | Fanahy | Soul |
マラヤーラム語 | ആത്മാവ് | ആത്മാവ് |
マルタ語 | Spirtu | Spirtu |
マレー語 | Roh | Roh |
ミャンマー語 | ဝိညာဉ်တော်သည် | ဝိညာဉ်တော်သည် |
モンゴル語 | Сүнс | Сүнс |
モン語 | Ntsuj Plig | Ntsuj Plig |
ヨルバ語 | Ẹ̀mí | Ẹ̀mí |
ラオ語 | ວິນຍານ | ວິນຍານ |
ラテン語 | Spiritus | anima mea |
ラトビア語 | Gars | Gars |
リトアニア語 | Dvasia | Dvasia |
ルーマニア語 | spirit | suflet |
ルクセンブルク語 | Geescht | Geescht |
ロシア語 | дух | душа |
英語 | Spirit | Spirit |
韓国語 | 정신 | 영 |
中国語(簡体) | 精神 | 精神 |
中国語(繁体) | 精神 | 精神 |
日本語 | 精神 | 霊 |
宗教と人間の生活を分離していない
これは Google 翻訳を使った単純な翻訳作業であって、実際には文脈によって細かいニュアンスが変わってくる可能性はあります。
それでも「霊」が「精神」と同じ意味を指しているということは、その言語圏ではこの二つを基本的には区別していないということです。「宗教の文脈で超越的な存在に対して語られるもの」と「日常生活の文脈で人間の根幹に対して語られるもの」の二つに大きな違いがないことを示しています。
これが、世界に広がり多くの人の心の拠り所になっている宗教というものの、そこに所属する人の受け取り方に影響がないとは思えません。
この二つを、異なる単語によって分離することに成功した日本人の持つ感覚と、そうでない言語を持つ民族との間には宗教観の大きな違いがあると思った方が良い。
冒頭の記事の中では、歴史の長さに由来する「慣性力」が現代にも働いているために、多くの場面で宗教が大きな影響力を持っているように書かれています。だからそれを念頭に置いておいた方が良いと。しかしそれだけではなく、このように言語レベルで人間の深いレベルにあるものが宗教で語られているものに根差しているという事実も押さえておくべきでしょう。とくに「宗教がわかってない人は...」などと言うのであれば、このことはけっこう重要だと思います。
宗教と科学は対立する概念ではない
この記事の中では、宗教と科学を対立する概念として繰り返し描いています。つまり「ファンタジー」と「現実」の対立というわけです。それはそれでその人の「宗教」なので別に構いませんが、事実は異なります。
科学も極めていくと、宗教で語られている内容がいくらか現実であるとわかってくると言います。そして科学も突き詰めれば大衆は、それを「信じて」いるに過ぎないこともわかります。
つまり宗教と科学はどちらも「現実」と「現実」あるいは、「ファンタジー」と「ファンタジー」なのです。この時代になっても結局「こっちが真実、あっちは異端」という争いが続いているのは、もう信仰などとは別の、何か人類が陥ってしまっている「穴」のような気がします。まあ、この争いの中で明らかになった真実というものもあるので、一般大衆はその恩恵を受けてはいるのですが。
霊と精神は同じ概念である
海外の書物を読んで「霊」という言葉を見かけたら、もちろん文脈にもよりますが、それは「精神」と同じ言葉なのだと念頭に置いて読んだ方が、より理解できることがあります。翻訳する上でどちらの語を採用するか、翻訳者の方はもちろん悩むと思います。日本語としては別々の言葉に分かれている以上、選ばなければいけないのですが、これは読む側でも気をつけなければいけないのでしょうね。
あるいは英語の「Spirit」やドイツ語の「Geist」は、もう「霊」とも「精神」とも違う、なにか別の概念である考えるのも良いかもしれないですね。