サポンテ 勉強ノート

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多くの言語で「精神」と「霊」は同じ言葉を用いる

 以下の記事を読み、気になった点を指摘しておきたいと思いました。

宗教がわかってない人はこの4原則を知らない | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 この記事は以下の書籍からの抜粋のようです。

 記事は、以下のような書き出しで始まっています。

宗教を理解するうえで大事なのは、「信じる」「信じない」ということは脇に置いて、それが近代以前の社会では当たり前の文化だったことを押さえておくことだと思います。

しばらく後の方に、宗教とは何であるかについて「もっと簡単に言うと、『霊や神を語る文化』ということです。」とありました。

 ここで「霊」という言葉が出てきましたが、この言葉は「精神」と同じ言葉を用いている言語圏がけっこう多いということを押さえておく必要があります。

「霊」と「精神」で同じ言葉を用いている言語

 Google 翻訳で使える 109 言語で、「精神」と「霊」を翻訳して調べてみました。下の表のようになりました。109 言語のうち、20 言語が両者を区別しているものの、その他の 89 言語は同じ言葉を用いていました。

言語 精神
アイスランド語 Andi Andi
アイルランド語 Spiorad Spiorad
アゼルバイジャン Ruh Ruh
アフリカーンス語 gees siel
アムハラ語 መንፈስ መንፈስ
アラビア語 الروح الروح
アルバニア shpirt shpirt
アルメニア Ոգին Ոգին
イタリア語 spirito anima
イディッシュ語 גייסט גייסט
イボ語 Mmuo Mmuo
インドネシア語 Roh Roh
ウイグル روھ روھ
ウェールズ語 Ysbryd Ysbryd
ウクライナ Дух Дух
ウズベク Ruh Ruh
ウルドゥー語 روح روح
エストニア Vaim Vaim
エスペラント Spirito Spirito
オランダ語 Geest Geest
オリヤ語 ଆତ୍ମା ଆତ୍ମା
カザフ語 Рух Рух
カタルーニャ語 Esperit Esperit
ガリシア Espírito Espírito
カンナダ語 ಸ್ಪಿರಿಟ್ ಸ್ಪಿರಿಟ್
キニヤルワンダ Umwuka Umwuka
ギリシャ Πνεύμα Πνεύμα
キルギス рух жан
グジャラト語 ભાવના ભાવના
クメール語 វិញ្ញាណ វិញ្ញាណ
クルド Giyan Giyan
クロアチア語 duh duša
コーサ語 Umoya Umoya
コルシカ語 Spìritu Spìritu
サモア Agaga Agaga
ジャワ語 Roh Roh
ジョージア სული სული
ショナ語 Mweya Mweya
シンド語 روح روح
シンハラ語 ආත්මය ආත්මය
スウェーデン Spirit Soul
ズールー語 Umoya Umoya
スコットランド ゲール語 Spiorad Spiorad
スペイン語 Espíritu Espíritu
スロバキア duch duše
スロベニア Duh Duh
スワヒリ語 Roho Roho
スンダ語 Roh Roh
セブアノ語 Espiritu Espiritu
セルビア Духу Духу
ソト語 Moea Moea
ソマリ語 Ruuxa Ruuxa
タイ語 วิญญาณ จิตวิญญาณ
タガログ語 Espiritu Espiritu
タジク語 Рӯҳ Рӯҳ
タタール Рух Рух
タミル語 ஆவி ஆவி
チェコ語 Duch Duch
チェワ語 Mzimu Mzimu
テルグ語 ఆత్మ సోల్
デンマーク Spirit Soul
ドイツ語 Geist Geist
トルクメン Ruh Ruh
トルコ語 ruh ruh
ネパール語 आत्मा आत्मा
ノルウェー Spirit Soul
ハイチ語 Lespri Lespri
ハウサ語 Ruhu Ruhu
パシュト語 روح روح
バスク語 Spirit Soul
ハワイ語 ʻUhane ʻUhane
ハンガリー語 szellem lélek
パンシャブ語 ਆਤਮਾ ਆਤਮਾ
ヒンディー語 आत्मा आत्मा
フィンランド henki sielu
フランス語 Esprit Esprit
フリジア語 Geast Geast
ブルガリア дух душа
ベトナム語 Thần Thần
ヘブライ語 רוח רוח
ベラルーシ Дух Дух
ペルシャ語 روح روح
ベンガル語 আত্মা আত্মা
ポーランド Duch Duch
ボスニア Duhu Duhu
ポルトガル語 Espírito Espírito
マオリ Ko te wairua Ko te wairua
マケドニア Дух Дух
マラーティー आत्मा आत्मा
マラガシ語 Fanahy Soul
マラヤーラム語 ആത്മാവ് ആത്മാവ്
マルタ語 Spirtu Spirtu
マレー語 Roh Roh
ミャンマー語 ဝိညာဉ်တော်သည် ဝိညာဉ်တော်သည်
モンゴル語 Сүнс Сүнс
モン語 Ntsuj Plig Ntsuj Plig
ヨルバ語 Ẹ̀mí Ẹ̀mí
ラオ語 ວິນຍານ ວິນຍານ
ラテン語 Spiritus anima mea
ラトビア Gars Gars
リトアニア Dvasia Dvasia
ルーマニア語 spirit suflet
ルクセンブルク Geescht Geescht
ロシア語 дух душа
英語 Spirit Spirit
韓国語 정신
中国語(簡体) 精神 精神
中国語(繁体) 精神 精神
日本語 精神

宗教と人間の生活を分離していない

 これは Google 翻訳を使った単純な翻訳作業であって、実際には文脈によって細かいニュアンスが変わってくる可能性はあります。

 それでも「霊」が「精神」と同じ意味を指しているということは、その言語圏ではこの二つを基本的には区別していないということです。「宗教の文脈で超越的な存在に対して語られるもの」と「日常生活の文脈で人間の根幹に対して語られるもの」の二つに大きな違いがないことを示しています。

 これが、世界に広がり多くの人の心の拠り所になっている宗教というものの、そこに所属する人の受け取り方に影響がないとは思えません。

 この二つを、異なる単語によって分離することに成功した日本人の持つ感覚と、そうでない言語を持つ民族との間には宗教観の大きな違いがあると思った方が良い。

 冒頭の記事の中では、歴史の長さに由来する「慣性力」が現代にも働いているために、多くの場面で宗教が大きな影響力を持っているように書かれています。だからそれを念頭に置いておいた方が良いと。しかしそれだけではなく、このように言語レベルで人間の深いレベルにあるものが宗教で語られているものに根差しているという事実も押さえておくべきでしょう。とくに「宗教がわかってない人は...」などと言うのであれば、このことはけっこう重要だと思います。

宗教と科学は対立する概念ではない

 この記事の中では、宗教と科学を対立する概念として繰り返し描いています。つまり「ファンタジー」と「現実」の対立というわけです。それはそれでその人の「宗教」なので別に構いませんが、事実は異なります。

 科学も極めていくと、宗教で語られている内容がいくらか現実であるとわかってくると言います。そして科学も突き詰めれば大衆は、それを「信じて」いるに過ぎないこともわかります。

 つまり宗教と科学はどちらも「現実」と「現実」あるいは、「ファンタジー」と「ファンタジー」なのです。この時代になっても結局「こっちが真実、あっちは異端」という争いが続いているのは、もう信仰などとは別の、何か人類が陥ってしまっている「穴」のような気がします。まあ、この争いの中で明らかになった真実というものもあるので、一般大衆はその恩恵を受けてはいるのですが。

霊と精神は同じ概念である

 海外の書物を読んで「霊」という言葉を見かけたら、もちろん文脈にもよりますが、それは「精神」と同じ言葉なのだと念頭に置いて読んだ方が、より理解できることがあります。翻訳する上でどちらの語を採用するか、翻訳者の方はもちろん悩むと思います。日本語としては別々の言葉に分かれている以上、選ばなければいけないのですが、これは読む側でも気をつけなければいけないのでしょうね。

 あるいは英語の「Spirit」やドイツ語の「Geist」は、もう「霊」とも「精神」とも違う、なにか別の概念である考えるのも良いかもしれないですね。