偽善のすすめ: 10代からの倫理学講座 (14歳の世渡り術)
- 作者: パオロ・マッツァリーノ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/02/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (5件) を見る
本の紹介
本の著者の分身とおぼしきパオロさんと、近所の中学生の会話を通して、偽善について、その歴史と定義について知り、考えることができる内容です。
14歳の世渡り術というシリーズの中の一冊で、たしかに10代にも読みやすいないようになっていますが、かなりハッとさせられる箇所もあります。
「ほとんどの日本人は、偽善という言葉の意味を深く考えず、気にくわない相手を批判するための便利な悪口として安易に使っているよう」「だれかの行為を、そんなのは偽善だ!と批判すると、すごく痛烈な批判のように聞こえるんです」(p24より)
つかみはばっちり
冒頭の人物紹介にて。中学の部活で「落語研究会」に所属していた男の子と「弁論部」に所属していた女の子が「顧問の数が足りない」という理由で二つの部活が合併されて「落弁部」が誕生したという設定が斬新すぎて大笑いしました。
人気のない「偽善」
偽善という言葉の定義に対して、英語と日本語ではずいぶんと異なることが最初に明らかにされます。
そこから順を追って「偽善」という言葉がいつ生まれたのか、いつ広がっていき、言葉に対する感じ方がどのように変わっていったのかが書かれています。
その歴史の中で「偽善」について、しっかり議論されたり、ちゃんと考えたりした思想家がとても少ないことが明らかにされています。
たとえば「悪」とか「平和」といったテーマなら、しっかり議論されているに違いないと思われますが、それと比べるとその「人気のなさ」はとても意外です。英語と日本語で定義が異なることにも一因があるのでしょう。
しかしながら現代の日本では、歴史的に浅い上に国際的には異なる概念であることが意識されることなくこの言葉が多く使われています。ここにとても危険な感じがします。
「偽善、ヒポクリシーの語源はギリシャ語の"演技"です。」「偽善を否定しているうちに、だんだん"善"や"正義"に対する感覚までマヒしてしまったら、それも大きな問題です。」
この本を読んでいただければ、その危機感がわかっていただけるかと思いますが、でもこの本はもっとライトな感じで書かれていますので、作者の方に敬意を表してライトな感じで読めばいいと思います。
定義
心にもない義務への従順を装うだけの行為(カント)
完璧な正しさなど存在しないのに自分が正しいと確信している何かをする(ヘーゲル)
(主に当時のキリスト教団体を指していると思われる)自分たちが信じる一面的な善や正義を絶対的なものと信じて、他人にまで押しつけてくる連中(ニーチェ)
善をめざすことをやめた情けない姿をみんなで共有しあって安心する(浅田彰)
面白いですね。