サポンテ 勉強ノート

サポンテの勉強ノート・読書メモなどを晒します。

すべてのデザイナーと広報担当者はコンプライアンス=マーケティングを

コンプライアンス=マーケティングの必要性と、それを専門に行うコンサルティング=ビジネスの可能性を提案します。

繰り返される不適切な表現

阪急電鉄は「毎月50万円もらって生き甲斐のない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。」という中吊り広告を出しました。これに対し「生き甲斐のない生活を送りながら20万ももらっていない人間が大勢いるのに」と猛烈な批判がわき起こり、この広告は掲示を中止することになりました。(2019/06/10)

スポーツウェアなどで有名なブランド「ナイキ」はすでに出荷済みだったにも関わらず、スニーカー「エアマックス1・USA」の販売を中止することにしました。スニーカーは、アメリカの独立記念日に合わせて作られたもので、独立当時の星条旗があしらわれていました。これがアメリカン=フットボールの元選手、コリン=キャパニック氏に「奴隷制度の時代を想起させる」と批判され、販売の中止はそれを受けたものと考えられています。(2019/07/06)

アメリカのセレブ、キム=カーダシアン=ウェスト氏は、自身の補正下着ブランド名に「KIMONO」と命名し、商標登録を申請、「kimono.com」のドメインも取得しました。しかしこれは「文化の盗用」にあたるとして国際的な批判を受け、結局、別のブランド名を使用することが発表されました。(2019/07/02)

イタリアのファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ」は中国へのビジネス展開に当たり、イタリア料理の象徴「ピザ」を、中国文化の象徴「箸」を使って食べるプロモーション映像を公開しました。箸の使い方が乱暴であったことから「中国文化に対して礼を失している」との批判を受けました。批判を受けたデザイナーが対抗して中国に対する差別発言を SNS に投稿したことから、批判は烈火の如く拡大。予定されていたショーは中止。ブランドは中国市場からの撤退を余儀なくされました。(2018/11/21)

コンプライアンスとは

サポンテが現在勤めている会社で、先日「コンプライアンス研修」なるものを受けました(サポンテが新人だからというわけではなく、ある程度の規模の企業は、定期的に実施しています)。その中には、次のような言葉がありました。

コンプライアンスとは「法令遵守」と訳されることもありますが、法律さえ守っていれば良いというものではなく、自分たちの企業活動で多くの人たちを傷つけることがないようにすることが大切です。

このような意味で考えれば、繰り返される不適切な広告表現・ブランディングは、法令違反ではないけれど、コンプライアンスに違反していると言えます。

例えば Youtube やブログ、SNS などのメディアは、素人が第三者チェックなどを受けることなく世界中にコンテンツを公開することができるため、批判を受けやすい内容も広がりやすい環境にあることは理解できます。しかし有名ブランド、有名企業には、それこそ多くの「優秀な人材」や「優秀な協力者」がいるはずです。その方々は内容を精査して、こうしたことを予見し、予防することはできなかったのでしょうか。

表現の自由

もちろんサポンテは、デザイン・広告表現などの「表現の自由」が批判を恐れて行き過ぎた萎縮をするべきであるとは思っていません。

しかし、これらのビジネス主体は「話題になってほしい」と願ってはいても「悪評によって企業、ブランドのイメージを毀損しても構わない」まして「展開していたビジネスが中断を余儀なくされ巨額の損失を被っても構わない」とは考えていないはずです。ドメインの取得は、おそらく安くはなかったでしょう。人口の多い中国市場を失ったことは一体どれほどの損失になるのか想像もできません。そのような結果を、それぞれのブランドは望んでいなかったでしょう。

デザイナー・広告制作者は、ある種芸術家の素養が必要ですが、それだけでは勤まりません。芸術家の使命は「これまでにない新しいものを作ること」「世に問いかける鋭いメッセージを持つこと」などが求められますが、言ってみればそこまでで良いのです。「多くの人から評価されること」や「好きになってもらうこと」などは__求めても良いですが__必要としません。しかしデザイナーはビジネスとして「多くの人の心に良い印象を残して、ブランドを愛してもらうこと」を必須としています。個人プレイの芸術家と異なり、デザイナーは自分の後ろに存在するビジネス主体にも責任を持っているのです。

コンプライアンス=マーケティング

そうであればこそ、自分たちのデザインやブランディング戦略が不適切な形で話題にならないようチェックしてアドバイスを行う「コンプライアンス=マーケティング」とも言うべき部署なり、第三者機関を持っても__利用しても__良いのではないでしょうか。

内部チェックでは忖度や怠慢などが起きやすく、効果が期待できません。阪急電鉄の事案は内部チェックはしていました。チェックは第三者機関であることが重要です。

映像表現の現場では、映像の中に使われる光や色が過度な刺激にならないかなどをチェックして気をつけるようアドバイスを行うポジションがあります。そうしたアドバイスを受けて作られた映像は、表現の自由をあまり損なうことなく、大勢の人の心を掴むことができます。コンプライアンスでも同じようなことができるはずです。

批判を恐れて表現が萎縮してしまうのではなく、別の立場・視点から違うアプローチをすることで表現の幅が拡大する可能性も秘めています。

炎上商法

デザイナー・経営者の中には故意に不適切な発言・表現を行い、悪い意味で知名度を得るいわゆる「炎上商法」を行う人もいます。しかしそうした売名行為は、注目を集め、お金を得るためなら多くの人を不快にしたり傷つけても構わないという態度を、社会に広めます。最終的に良い結果をもたらさないでしょう。

ファッションデザイナーなどは社会の潮流を牽引するリーダー的な位置づけにあることもあって、こうしたコンプライアンス=マーケティングなどの「配慮」を嫌うかもしれません。しかし冒頭に挙げた事例は金銭的な損失もかなりのもので、それはデザイナーとしても本意ではないでしょう。

感覚のズレ

批判を受けビジネスの方向を転換せざるを得なくなる案件のほとんどは、一見して「そりゃダメだろう」と感じるものが多く見受けられます。「どうして事前に気付かなかった?」と感じます。発信者と受信者に感覚のズレがあるのでしょうか。貧富の格差の広がり、多様性の拡大が、こうした共通認識基盤のズレを加速させている気がしています。

人は立場が違うと見えなくなるものがあります。「その発想はできなかった」ということもあるでしょう。不特定多数に発信する側に立つのなら、より一層の配慮が必要です。それが自身でできないのなら第三者のレビューを受けるのが効果的かと思います。

反対にそうしたレビューを引き受けるコンサルティングビジネスというものもあり得るでしょう。そうしたビジネスはまた、マイノリティが社会全体に受け入れられるまでの間の良い受け皿としても機能するのではないかと思います。

ショートストーリーでらくらく学べるコンプライアンス~緑山優子のコンプライアンス事件簿~

ショートストーリーでらくらく学べるコンプライアンス~緑山優子のコンプライアンス事件簿~