本好きの下剋上?司書になるためには手段を選んでいられません?第一部「兵士の娘I」
- 作者: 香月美夜
- 出版社/メーカー: TOブックス
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: Kindle版
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本の紹介
近くの図書館で永い間平置きされていました。気になりつつ何度も手にしては後回しにしていました。
ネット小説という出自を持つ、いかにもという題名と装丁にちょっと抵抗感がありました。それは偏見ではないかと言われればそうなのですが。しかしながら読んでみてやはりその文体、言い回しなどに垣間見えるネットスラングは鼻につくものがありました。
また「下剋上」というところも、エグい内容なのかとちょっと引いていたところもあります。
抵抗感とは逆に、それでも読もうと思った「魅力的」な部分はどこだったでしょう。題名の前半「本好き」という部分にやっぱり愛を感じたからでしょうか。
結果読んでよかったです。
あらすじ
就職も内定したビブリオマニアの女子大生が突然事故死。異世界に6才の女の子として転生します(この設定も「いかにも」ではありますが)。そこは中世ヨーロッパのような世界で、本の存在しない世界でした。本は有ったとしても羊皮紙使って作られたとても高価なものに限られ、転生後の身分ではとても手の届くものではなかったのです。
本に飢える主人公は、無いのならば自分で作ってしまえと試行錯誤しますが、そのような世界にあっては本どころか世間の識字率も低い様子。その世界の文字を知るところからスタートです。
下剋上?
読んでいて、はたしてなにが下剋上だっただろうかと思いました。何せ主人公は(元女子大生でも)6才の女の子。しかも特別に病弱。
しかし主人公は、慣れていた現代生活の中に当たり前に有ったものが存在していない世界で、かつて読んだ本や元の世界での自身の経験から、その世界に必要なものを身近なものを使って作り出しては世界を広げていきます。
主人公はその世界でほぼ最年少でも知識は現代人。自身の必要から作り出す最低限のものでも、年長者を驚かすほどのものを持っています。
そういう意味では下剋上。元の世界の知識と経験を生かし、有り合わせの材料と道具でシャンプー、レース編み、ホットケーキを初めとした料理などなど作っては周りの人たちを幸せにしていきます。
紙のない世界で
主人公の本に対する、文字や紙などに対するその執念と情熱、病弱な身体を圧しての並々ならぬ努力、そして周りを楽しく巻き込んでいく様は声援を送らずにはいられません。
本も無く、紙すら無く、文字もまだうまく使えない主人公の切実な奮闘を読んでいて、それらが存在する現代の世界が奇跡のようであると思えてきました。ただノートに文字を書く。書ける。それだけのことが、とても尊いもののように感じました。それは今でもそうかもしれません。本を読めることや勉強ができることが、とてもありがたいと思います。
また読者は様々な「下剋上」を読むうちに様々な雑学を身につけることができます。主人公のしたいことは「本を作ること」と明確になっていますが、最近では自分のしたいことが見つからず悩んでおられるかたも少なくないと聞きます。この本を読んで主人公の「下剋上」の中から何か見出せるものがあるかもしれません。サポンテもちょっとレース編みをやってみたくなってしまいました。