サポンテ 勉強ノート

サポンテの勉強ノート・読書メモなどを晒します。

わからん薬学事始(2) (まはら 三桃著、講談社)

わからん薬学事始2

わからん薬学事始2

第二巻

主人公の木葉草多は、家業として四百年にわたって秘薬を作り続けている家と郷里の久寿理島(くすりじま)を離れて、東京の「わからん荘」で下宿しながら難門「和漢学園」で薬学を学んでいます。「わからん薬学事始」第二巻では高校二年生になります。

ライバル達の成長物語

今巻には、第一巻から登場しているライバル秀有(しゅうゆう)や、主人公の下宿先「わからん荘」オーナーの孫娘真赤(まき)らの葛藤と、それを乗り越える過程が描かれています。

もちろん主人公も、自分の目的のための手がかりをいろいろとつかんでいきます。

物語冒頭から主人公の目的は生家で四百年続けられている伝承薬「気休め丸」の製法を自力で習得すること。そしてその気休め丸の弱点を克服すること。

気休め丸の伝統的な製法

気休め丸の作り手は代々女の人。それは木葉家に女の子しか生まれてこなかったからというのが理由ですが、その製法には制約が多くとても閉鎖的です。

主人公は四百年目にして初めての男の子ですが、その場合は逆にその製法を受け継ぐことが許されず、島の外に出て自力で製法を身につけることが課せられるということになっています。

いろいろと時代錯誤的なにおいがしますが、今巻ではその閉鎖的な製法や伝承のやりかたには大きな意味があることが示唆されています。

魔法への憧憬

主人公の特殊能力を除いて、物語に描かれている伝承薬の世界は、まるで魔法使いの世界です。魔法という言葉に抵抗があるのなら、神秘と言い換えてもいいかもしれません。

人は若い頃(幼い頃?)しばしば魔法使いに憧れます。でもこの世界の仕組みを学ぶうちに、魔法なんかないのだと気づかされます 1 。全ての事柄には理由があるのだと。

世界の理(ことわり)は、いつもかわらずそこに存在している。今は無理でも、いつかそれが明らかにされる。そのことを思うとき、たしかに魔法はないのかもしれません。

でも自分には無いなにか不思議な力を発揮する人たちのなす技(わざ)や、あっというまに世界を変えてしまう自然現象のなせる業(わざ)、複雑系や混沌の中にのみ姿を現す秩序を目にするとき「まるで魔法のようだ」と思ったことはないでしょうか。目の前に確かに存在している「自分にはできなくて、他のものにはできる『わざ』」を魔法と表現するのなら、たしかに魔法は存在すると言えるのではないでしょうか。

そして、その「なにか」に対する憧れの感情は、自分を向上させる原動力になります。人はいつでも、魔法使いに憧れ、自分を高めるきっかけにできるのだと思います。

気休め丸製法の手がかり

主人公は伝承薬「気休め丸」の手がかりを__製法にしろ弱点克服にしろ__自力で習得しなければなりません。通っている和漢学園は最高の環境ではありますが、製法まったくそのものを教えてもらえるわけではありません。それができるくらいなら、伝承薬はとっくに大手製薬会社によって普及薬となっているからです。

主人公は授業から、わからん荘に訪れる人たちの会話から、一つ一つその手がかりを積み重ねていきます。

手がかりの一つ一つがまた、生活の知恵的な事柄になっていてタメになります。

「技術は教わるものではない。盗むものだ」という、古くから大工に伝わる格言を思い出します。手がかりは日常のそこかしこに潜んでいますが、それを見出すのは学び手に委ねられる。当たり前のことのようですが、意外とできていない人が多いのではないでしょうか。大切なのは日常に起きる様々なことが何の手がかりであったのか気づくことです。そしてその気付きのためには、ある程度の基礎知識を身につけることが必要です。基礎が大きい人ほど、見出す気付きも多くなります。マタイ効果 2 と呼べるものは、ある程度は自分でコントロールできます。いえ、しなければいけません。なぜなら世界の誰も、自分と同じ人生は歩んでいないのですから。世界に一つしかない人生のヒントは教わるものではありません。そして待っているだけのものでもありません。

そして第三巻へ

第一巻とは異なり、第二巻の最後はすこし気になる終わり方をしています。第三巻も楽しみです。

天才!  成功する人々の法則

天才! 成功する人々の法則


  1. これもまた思い込みであることに、いつか気づくのですが、気づかない人も少なくありません。

  2. 「天才!成功する人々の法則(マルコム・グラッドウェル)」より。