サポンテ 勉強ノート

サポンテの勉強ノート・読書メモなどを晒します。

わからん薬学事始(1) (まはら 三桃著、講談社)

わからん薬学事始1

わからん薬学事始1

薬学のハリーポッター

児童文学のジャンルから、なんとなく魅力的なタイトルに惹かれて読んでみました。

主人公の少年「木葉草多」が、高校進学を機に単身東京の学校に通い始めるところから物語が始まります。

四百年にわたって秘薬を作り続けている郷里の久寿理島(くすりじま)を離れ、慣れない環境での生活、難関「和漢学園」で落ちこぼれそうになりつつも、自分の目的のために第一歩を踏み出す、主人公の成長物語です。

登場人物はみなユニークで、とくに主人公の下宿する「わからん荘」のオーナーである「橘欄」という破天荒な老人は、少し前に読んだ「インスタント沼」のおとうさんを思い出します。

もちろん和漢学園では西洋医学の薬学も学んでいるはずですが、主人公の生い立ちからわかるように、ストーリーの中心は漢方や薬草、古今東西の伝承薬などにまつわるものが多くなります。

古来からの伝承の薬学はどこか魔法めいていて、主人公が特別な能力を持っていることもあって映画「ハリーポッター」からアクションを抜いたような、楽しい物語になっています。

大掃除をゴールデンウィークにしたり、薬草を身近な生活に役立てる知恵的なこともちりばめられていて、マンガ「動物のお医者さん」のような上品な雰囲気もあります。

また舞台の和漢学園での速すぎる学習ペースについていけない主人公の勉強への取り組み方も、非常に参考になります。

特殊能力

主人公にはどこか特別な能力があり、物語のなかでそれは明らかになっていきますが、成長物語にふさわしく、もともと備わっていたものを再認識するというかたちで描かれています。

将来の夢や目的、生活といったものに漠然としたものしか持てず、はっきりした目標を持つライバルに強いコンプレックスを感じる主人公は、現代の若者の姿そのまま映しているように思えます。

生い立ちから半ば義務的に薬学を学んでいた主人公はライバル達の出会いから、自分の「進んでいる」道を「進みたい」道として自分自身で選び直します。

将来の夢や目的、目標といったものは自分の中にたしかにあるものの、見つけるきっかけや、それを具体的な形にするものは、友達の何気ない言葉だったり、書物の中だったり、つまりは自分の外側の世界からもたらされることが往々にしてあります。

この物語の主人公ほど特殊ではないとしても、若者には__そして全ての人には__何かしらの優れた可能性を持っていると、そう信じることができる物語です。

インスタント沼

インスタント沼