サポンテ 勉強ノート

サポンテの勉強ノート・読書メモなどを晒します。

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの(松尾豊著 角川EpuB選書)

読んだ本の紹介

永らく「人工知能」という分野に関わって来た著者がいままでの簡単な歴史と、現在ブームが起きている理由、今後の展望について記しています。

人工知能学会の編集委員から委員長までつとめていて、本書の情報量は横の広がりがとても大きい。そればかりではなく過去から未来まで、つまり縦の情報量も広大なものがあります。またもう一つの軸として、人工知能というものをどのように捉えるか__歓迎すべきものなのか畏怖すべきものなのか__についても様々な考え方を紹介しつつ深く考察しており、おおむね楽観的ながらも全体を見渡すことができます。

この本一冊を読めば、現在の社会の中で人工知能がどのような位置づけにあるのか、上記のような様々な軸で把握することができるでしょう。

この本にかかれていないこと

逆にこの本に書かれていないこともあります。

プログラム(ソースコード)、実際の使用方法などは書かれていません。

アルゴリズムについても、「人工知能」と概される技術に対する度を越した期待論とその対極にある悲観論について、冷静に現状を把握する目的で、基本的なアルゴリズムを紹介しているにとどまります。

これらを期待して本書を手に取る人は居ないかもしれませんが、しかしそうした「人工知能」の実務的なユーザーになる前に、本書に書かれている背景を知っておくことは有益であると思います。現代史を学ぶ前に、それ以前の歴史を学ぶような感じです。

併せて読みたい

この本には「フレーム問題」という、無限に計算を繰り返して仕事を終えることが出来ない人工知能の問題が載っています。フレーム問題を解決するには、現状から3段階ほど先の未来に進んでからになるというのが著者の見解です。 浦沢直樹のマンガ「PLUTO」には世界中の人間の人格をインプットされたロボットが無限の選択肢があるためにどの人格を選択すべきか、いつまでも計算が終わらずに目覚めなかったというエピソードが載っていました。作中ではその解決に「偏り」を用いていました。 人工知能と一緒に大きなトレンドになっているビッグデータですが、この「フレーム問題」と「偏り」で解決する手法など、奇妙な一致点があるように思えて興味深いです。

228ページには「機械との競争(エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー日経BP社)」という本が紹介されています。この本では二つの議論がなされているとして、ひとつは科学技術の発展によってなくなる仕事もあるが、代わりに新しい仕事が必ずできる。これまでの200年間はそうであった、というもので「たとえば、耕作機ができて人間は田畑を耕さなくてよくなったが、耕作機をつくる人間、耕作機を使う人間、そして売ったり維持したりする人間が必要になった」もうひとつは「これまでの変化は少数の人だけに影響があるものだったかもしれないが、今回の変化は大多数の人に影響を与えるものかもしれないという点である。そして、富むものと貧しいものの差が広がるということである。(中略)格差や平等について考えるのは重要なことだろう」

サポンテはこう考える

この二つの議論のうち前者は私も同感で、実際、人の(計算という)仕事を肩代わりするはずのパソコンは膨大なエンジニアを生み出しました。それに世界の人口は増え続けています。

後者については、こちらこそ、この200年間で着実に生み出されて来たものではないでしょうか。それまでに存在した「身分」のような制度はなくなったかもしれませんが、それは姿を変えただけで、富の集中と貧困の拡大という問題は、いつの時代も見て見ぬ振りをされてきました。

この二つの議論はいっしょなのでは__つまり「科学技術の発展は貧富の格差を広げるために利用され、『人工知能』はその栄枯盛衰をさらに加速させるだけ」にすぎないのではないか。

田畑を耕していた人びとは地主に利用されていたし、耕作機をつくる人間、使う人間、売ったり維持したりする人間は、耕作機を作って売る会社のオーナーに利用されている。結局のところこの構図は変わりません。社会は相変わらず「人間との競争」のままです。

だから人工知能についても、現状、私の中に期待感はありません。この新しい技術がそれだけで人類にとってより善いものをもたらしてくれるわけでもなく、また人びとの職を奪うことになるとも思いません(※)。ただ「新しい技術のひとつ」として接していくだけです。

※もちろん働き方という点で変化はあるでしょうけれど、それは人工知能の有無とは関係なく今までも起こってきたことです。

技術の進歩や普及は(それだけでは)人類の幸せには寄与しない。それがエンジニアになって身を以て知ったことですし、外の世界に目を向けても南北問題や環境問題、貧富の格差__いずれも悪化している__を、解決する技術があるにもかかわらず、いつまでも解決できないでいることが、それを裏付けています。

この本にも書かれているように、人工知能の研究とは詰まるところ「人間」や「知能」はどのようにできているかを究める道でもあります。やがては「幸せ」や「個性」といったものがどのようにできているかを避けて通ることはできなくなるでしょう。人工知能の研究に私が期待するとしたら、そこの部分でしょうか。